私信の中で選んで下さった歌
2007.08.06 Monday |
松村由利子さん
・バルトーク、ショスタコビッチ、プロコフィエフ 圧政ありて鳴り出だす音
・森の奥 予言の鳥は飛んだかしら シューマンの鳥、眠りの森の
・わたくしが雨であるなら弾かれて草の葉つたう雨の一粒
・細心の注意を払って生きなさい 昨日生まれた月の繊さで
・全部嘘、たとえそれでもいいじゃない 舞台には降る太鼓の雪が
内野光子さん
・森の樹の小枝であったその時も風は知らずに吹きすぎていた
・大切な一日のため雨よ降れ しずかにひらいてゆく花がある
・あの時は逃げられなかった今ならば逃げられるかしら列を乱して
・眠ろうとしても何だか眠れない 普通に戦争している時代
・映すのはやめて下さい 被災者の一人は疲れた明日の私
・千年を遥かに越えて生きている大きな樹ならわかってくれる
・命令を下されるため私たちは生まれて来ているわけではなくて
・もう過去のものと葬り去るようなこの書き方だって問題ではある
・万世が一系というそのことの何が尊くまたはそうでなく
・その前に日本人は 世界の人に先だって忘れるヒロシマ
岡貴子さん
・でもやがて魚が中に入って来て 私は魚になっていました
青柳守音さん
・少し前まで誰かを愛していたような真っ赤に炎えている七竈
前川博さん
・ソノヒトガモウイナイコト 秋の日に不思議な楽器空にあること
・もう飛べない飛びたい夢ももう持たない東京湾に夕日が落ちる
・原潜が浮上している春うらら東京湾に立つ蜃気楼
・この星のどこかに必ずいるだろう 反世界にも雨のかたつむり
・菜の花のような四月の日暮れ時 あなたは元気にお過ごしですか
・問題は終わってしまってから生きるその生き方のことではあるが
熊谷龍子さん
・やがてもう死もなく生もない世界 時が洗っていった砂浜
・昨日また誰か死んだね、雨の燕「いつもこの駅で降りていた人」
・変わらない日々の中にも終楽章もう近いことを告げて花咲く
・ほんとうは誰にも何にも興味なくエノコロ草は風に吹かれる
・この後の悲喜にどうして堪えてゆく靄と霞と霧の差ほどの
・青空の向こうの向こうまで一人 一番好きな時間の形
・眼下には桃源郷が広がって葡萄の丘がそれに続いて
・つくづくと薄情者で非人間 それが私と雨を見ている
真中朋久さん
・雨の音聴きながら見る財田川 財田川河口の廃船
・夏来ればさやぐ身なれば白い旅 水呑む龍が睨む一水
・古の青磁の海に泳ぐ魚 神無月という陽のやわらかさ
・あの貨車は今どのあたり過ぎている 遠い銀河をゆく夏燕
・木はのぼり木は広がって密生すジャスミンの木の香る三叉路