飛永京さんが『きょしゃーんの肉球』で感想を書いてくださいました。
2007.05.09 Wednesday |
★飛永京さんの『きょしゃーんの肉球』5月9日http://d.hatena.ne.jp/kyopin/20070509
2007-05-09 銀河からの最終便は第一便で
ひんやりん
ここ名古屋は30℃超えでした。所によっては光化学スモッグが発生したそうですね。あれはツライです。三十年くらい前からこっちここ数年前までは無くなっていたのに、中国からやって来てるんですって?困ったものです。
若い人なんかは、公害がどんどん増えているって思ってるようですけど、71-2年頃が全盛でした。ニッポンはがんばって、大気も水も、うんといい状態まで回復させたんですよね。
きらきらと光るスモッグかきわけて
古出来←→新瑞 市電は走る 京
その頃の名古屋を詠んだ歌です。そう、わたしはへっぽこ歌詠みで、そのつながりの歌詠みトモダチである、HN風間祥さん(こちらへのコメントはshoseさん)=望月祥世さんが第一歌集『銀河最終便』を出版されました。おめでとうございます。
iぢ@夫の胆嚢摘出手術の当日に届きました。春より強い陽射しが当たる術後快復室の窓際、消えぬ麻酔に朦朧と寝たり起きたりを繰り返す夫のベッドサイドで何度も読みました。
前世紀からの、わたしのお短歌掲示板やら、ご一緒させていただいてたいくつかの歌会掲示板で生まれた歌たちと、わたしの知らないところで生まれた歌たちが半分ずつくらいかしら。
いくつか引用してみます。(この日記は短歌を掲載する仕様ではないので、一首一行で収まらないかもしれません、ご容赦を)
「詩曲」より
クレッシェンド・デクレッシェンドどうしろというのだ降ったり止んだり雨は
バルトーク・ベラ、ベラ・バルトークいずれでもいずれにしても生き難き生
名歌。祥さんの特徴的な歌でもあると思います。定型から思いっきり外れているのに、とっても短歌。するすると石清水のように涌いてくる祥さんの歌。
どちらもとても懐かしい歌ですが、特に二首目は、リストもバルトークも、わたしたちと同じで、苗字が先で、赤ちゃんの頃にはお尻が青かったのねぇなんて話をしていて生まれた歌だと記憶してます。ちょっとした話からこんな素敵な歌がひょいひょいと出てきて、しかもそれらはノートに書き出されることもなく、直接、掲示板の投稿フォームにタイプされるという恐ろしく即興な瞬間の技。
音楽ネタをもう少し。
「詩曲」より
リコ・グルダ、パウル・グルダに父グルダが愛していると伝える楽譜
旋律ハソコデ膨ラミソコデ消エソコデ躓キソコデ泣クノダ
歌舞伎ネタもお得意。読めば見たような気になります。
「詩曲」より
舞台には時空をこえる橋が架かり 江戸のすべてが通って行った
魚屋も飛脚も手代も虚無僧も 遊女も瓦版売りも通って行った
上のように、何首かが同じ言葉で読まれたものも多いのが特徴的。ずっとリレーのように繋がって出てくるのでしょう。
「海の絵」より
貝殻やわけのわからないものたちがわたしの身体に一杯ついて
貝殻をとりたくたって離れない中から腐るだけの流木
でもやがて魚が中に入って来て 私は魚になっていました
これはもしや雨月物語?って連想するつかの間、話は展開されて、祥さんの静かな無常の世界に跳んでいってしまいます。もの言わぬ静かな自然を見る目がとても好き。
「午睡の時間」より
アレルギー物質一杯溜め込んで痒いのだろう漆、櫨の木
野の果てにタンポポ枯れて綿毛飛ぶ 日本に帰りたいしゃれこうべ
吊されしまま削がれゆく鮟鱇の胎内にありし頃の水嵩
ブック・オフに知は百円で売られけり 海を渡って死んだマンモス
歌集のタイトル『銀河最終便』って辻褄が合いにくいですね。銀河に最終便があるとは思えませんから。銀河鉄道ならわかりますが。その辻褄の合わない不思議な味わいも祥さんの歌の魅力です。適当にくっつけちゃった偶然の代物でもなさそうで、とっても面白く、遠くへの旅をさせられます。
「野の果て」と「ブック・オフ」に見られる、上句と下句の遠さはどうでしょう。なのに納得させられてしまいます。
ああ、キリがないのでこれくらいにしておきます。ご興味のある方は、http://sho.jugem.cc/?eid=2126 へ。無くならないウチにご注文をどうぞ。装丁もとても素敵です。とくに裏表紙が好き。スピノザかガリレオか、そんな人がいる。
目覚めては眠り、眠っては目覚める人のそばで、ぱらぱらと捲った歌集は、まるで画集でした。どこを捲ってもすーっと一目で景色や情景が見渡せて。1頁に8首のぎゅうぎゅうづめの歌集、とっても読みやすかったです。著者は行空けなしのもっとぎゅうぎゅうづめ歌集が夢だったようですけど、わたしには丁度よかったです。
麻酔から覚めて自室へ移動したiぢ@夫に、「祥さんの歌集が届いたよ、黒田くんも載ってるよ」って言ったら、「黒田?はぁ?」って首をひねりながら読んでいました。そう、黒田くんが歌にしてもらってるの。前から知っている歌でしたけど、印刷物になるということは格別なものなんですね。祥さん、おめでとう、ありがとう。
隻眼の猫の名前は六郎太 黒猫、黒田六郎太と聞く