WEB版 歌集『銀河最終便』 &メモ /風間祥
Finality mail of the Milky Way

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相沢光恵さんが、『あすなろ』第136号で、                 
『銀河最終便』の書評を書いてくださいました。
許可を得てUPさせて頂きます。






歌集『銀河最終便』 望月祥世著       相沢光恵                            


 灰色がかった地色に星を思わせるぼかしと細い線。白く抜か
れたタイトルと著者の名。あすなろ誌よりひと周り小ぶりな形
をした瀟洒な歌集である。見ただけでは、この中に千首以上収
められているとは思えないが、著者の長いであろう歌作りの想
いがこもった一冊である。
この歌集は三章に分かれ、(一一七首)花言葉や音楽、海
に関する歌。(一五〇首)インターネット歌会などで他者と
関わりながら書いた歌。(八五二首)WEB日記で書いた二
〇〇三年以降の作品。それぞれ、ほぼ年代順に抄出とのことで
あるが、歌数だけでなくその質も見事な第一歌集である。

 ・ライラック苦しきことを忘れんと買い求めくる水無月の花
 ・死者の首を奪っておいで イチハツの花咲きいでて美しい月
 ・アヤメ咲く危め殺めと変換す 薄紫に野原を染める

 気硫峪貊犬茲蝓なぜか花の匂いがしてこない。魅力にかけ
るというのではない、それどころかこの小題のもとに詠われて
いる花の数々、詠いぶりは圧巻である。だけど、『銀河最終便』
のイメージではない。なぜ、と疑問をもつタイトルのことを私
流に考えると、ヒントは「アヤメ咲く危め殺めと変換す」にあ
る。著者はパソコンの巧者であり、インターネットの世界にも
詳しい人である。この世界への繋がりどきは多分、夜、それも
深夜まで・・・。そこで生まれる歌の記録として、このタイトル
で括ったのではないか。

 もちろん。 宮沢賢治やサン・テグジュぺリなど、さらには、
現在欠かせない人工衛星の存在も含まれてのものかもしれない。
偏見かと自覚の上で、あるいは先入観ゆえに、理性の勝った花
の歌と感じてしまったともいえる。そうではあるが、『銀河最終
便』とはすばらしい命名、いや歌集名である。

 ・舞台には時空をこえる橋が架かり 江戸のすべてが通って行った
 ・魚屋も飛脚も手代も虚無僧も 遊女も瓦版売りも通って行った

この二首は並んでいる。前の歌の「江戸のすべて」この具体
が後の歌という、歌舞伎を観せる仕掛けが面白い。

 ・旋回、旋回、旋回、旋回、グランジュテ! 薔薇、薔薇の精、跳ぶニジンスキー

 臨場感たっぷりの破調。すでにニジンスキーはこの世の人で
はないのに著者の眼はそこに名舞踏家を重ねているのであろう。
著者の感性が定型には納まらなかった。
 次の歌も好きである。

 ・貝殻を取りたくたって離れない中から腐るだけの流木

 へえー?。流木は中から腐るのか。不思議な気分になる歌。

 ・淋しくてひとりぼっちで悲しくてヒマラヤシーダの枝走る栗鼠
 ・そんにも羞ずかしがりやのきみだから残して帰る春のヒマラヤ

 ヒマラヤに残して帰るのは何だろう。枝走る栗鼠では面白く
ない。きみは君とは違うとして、それでは何があるのかと思う。
もしかして山? すぐに雲に隠れたがるヒマラヤの山々には個
性的な名がある。まして春には密かに咲く花もあるそうだ。だ
から残して帰るのは山そのものとしておきたい。

 ・古備前は深夜ひそかに鳴るという 満身創痍の備前の壷が

出来上がったとき、すでに古備前は満身創痍の状態である。
どんなに歳月がたったところで、遠い記憶は消えない。痛い、
熱い、密やかに泣いている心算でも、壷に響いて音となる。

  ・水がほしい水がほしいと根を張って根ばかり張って瘤だらけの樹だ

人生は順風ばかりではない。著者が瘤だらけの樹に出遭った
ときの印象として、生まれたのではないか。叶わないけれども
求めて止まない樹への思いは「瘤だらけの樹だ」と結句をあえ
て一音多くしている。

・岩場には岩場の色のイグアナが重なりあって海を見ていた

著者の位置が想像できる。絶対イグアナの一人ではない。

・渦巻いているね世界がゆっくりと流れるように死んでゆくのか
・いつのまに死んでいたのか あの人もあの人もあの人ももういない

この二首は随分離れて置かれていた。ときには厭世的な心情
に駆られたりもあるのは不思議ではない。著者がいつもそんな
想いを抱いて生きているような歌に、私は惹かれるのである。

 千首以上の編集となると、それだけでも大変なことと思われ
る。体裁はコンパクトであるだけに、意表を衝かれたものの、
歌の面白さが著者と重なる。この沢山の歌はインターネッ
ト上での洗礼をすでに受けていると思われるが、自由な歌
作りに孤軍奮闘している者どうしとしては著者のこの歌集の完
成を大変喜ばしくも思ってもいる。では、最後の歌。

  ・千年の森の時間が止まるとき地球の皮を一枚捲る



                             ─『あすなろ』第136号─

※なお、記事の改行・行間は、掲載誌に拠りましたが、
読み易くするため、引用歌の部分のみ、一行に書き流し、
行間を設けさせて頂きました(7月6日、望月祥世)。
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